ただ生産するだけじゃない
場所は岩手県和賀郡西和賀町。岩手県の南西に位置する緑豊かな町です。
名人は、高橋医久子(いくこ)さん。彼女は結婚してから農業を始め、わらび粉生産や地元の食文化を生かした加工食品づくりを行なっています。
きっかけはお客さんから言われた「ここの町って、温泉以外何にもないね。」という言葉でした。そこで高橋さんは温泉以外でお客様を楽しませるような西和賀らしいものがあればいいなと感じたそうです。そこで目をつけたのが「わらび」。それまで西和賀ではわらびは雑草のような存在だったので、わらびを畑に植えることは反対されましたが一年かけて周囲を説得しました。その後、観光ワラビ園を開設すると共に、平成20年には岩手大学主催のアグリフロンティアスクールに入学し、農業経営を一から学びました。
「コンセプトはお母さん」
仕事をする上での立ち位置は西和賀町の農家のお母さん。家族の健康を願う母の気持ちを大切に、安心安全な食品を心がけています。
「農業って素晴らしい」
「何事もかたちを変えても継続してこそ意味がある。」と高橋さんは話します。そして高橋さんは「農業・農地を守ること」を今の目標にしています。また、農業によって交流人口を増やすことによって西和賀町の地域活性化に繋がり、後継者問題にも良い影響を与えるのではないでしょうか。
聞き書きをしたのは秋田県の高校に通い、将来農業関係の職につきたいと考えている柏木心寧さん。柏木さんは名人の、仕事を現状維持で満足せず計画を立てて目標に向かう姿勢、そして目標を達成するために研究したり学んだりすることに意欲的な姿勢を見て、見習いたいと感じたそうです。
よろしければ、柏木さんの聞き書きを本文でぜひご覧ください。
人と町を繋ぐ農業
- 名人
- 髙橋 医久子さん
- 聞き手
- 柏木心寧
わらびを農地に
平成13年に町から「わらびの根をあげますので、それを植えて町おこしに協力していただけませんか」というようなお話がありました。それについて私は興味を持って、わらびを植えてみましょうよと提案しました。だけど西和賀にとってわらびはどこにでもある雑草みたいなものだったので、「たとえタダでも、雑草を農地に植えるとは何事だ」「しかも、地主さんから借りた大切な土地に」と旦那に反対されました。私は砂ゆっこのお客様の話がずっと頭のなかにあって、西和賀のわらびは特別だから、もしかしたらそのわらびでお客様を楽しませることができるかもしれないと思ってました。それで1年かけて旦那を説得しました。
もらった根っこを植えてもたいした面積の畑にはならないから、最初はわらびの根を増やすことに専念しました。わらびは手入れが良ければ、1年間で根っこが10倍に増える。ですから、春に植えて秋に根を掘り出し、それを植えて面積を増やす。気がついたら、たった2aのわらび畑が5年で2・4haに増えていました。