名人の思いに心を重ねる
「聞き書き」の基本、それは「聞く」という行為です。「聞き手」と「話し手」の対話から、作品が生まれます。
「聞き書き甲子園」の場合には、「聞き手」である高校生が「名人」に質問します。丁寧に質問し、話を掘り下げていけば、「名人」の技術や行為のディテール(細部)が見えてくる。そうすることで、その人の仕事の重みと人生の核心に近づいていくのです。
二人の対話はすべて録音し、高校生は、その音声を一字一句、書き起こします。録音を再生しては止め、また書き起こしていく。その作業はしんどい、手間のかかる作業です。でも多くの高校生は、その作業が大切だと言います。録音を聞くと二人の対話を振り返ることができる。その時には気づかなかった言葉、名人の語る表情や間合い、その場の空気。初めは質問できない自分が歯がゆかったけれども、何かの拍子に二人で大笑いし、心が通じたと思えた瞬間……。その嬉しさも、後悔も、恥ずかしさも、感動も、そのすべてがよみがえってくるのです。
たとえば、稲本朱珠さんは、「聞き書き」を終えた後、こんな感想を言ってくれました。
「書き起こした文章を整理していくうちに、名人の言っていることが、いつの間にか、自分の言いたい(伝えたい)ことになっていく。この不思議な感覚は、聞き書きでしか味わうことができないと思う」
手間と時間をかけて、高校生が仕上げた作品は、重なりあう「二人の思い」の結晶です。
「更新」で守る日本一の里山~茶道を支える池田炭~
- 名人
- 今西勝(兵庫県川西市)
- 聞き手
- 稲本朱珠(同志社高等学校1年)
僕の訴え
炭を焼くうえで、僕はモットーとしてることがある。まず、使う人の身になって作るということ。信頼を得るようにね。初めて買うてくれたお客さんは、お金と一緒に「良い炭をありがとうございます」という手紙が必ずついてます。ありがたいことです。お客さんから、こんなお言葉をもらって出来る商売、今あらへん。これで心が温まります。もう一つはね、池田炭は上等だという歴史がある。お茶という日本の文化の一翼を担っていて、そして最高の炭を作って、最高の炭をみなさんに使ってもらってるんだという自負と責任。これを持って炭焼きをやってます。