高校生がつづる 森・川・海 聞き書きの本棚

「森は、共存するための家や」

聞き書き甲子園は、2002年に「森の名手・名人」の聞き書きからスタートしました。初年度に参加した100人の高校生のうちの一人、代田七瀬さんは、奈良県川上村の杉の種採り名人、杉本充さん(当時70歳)の聞き書きを担当しました。
杉本さんの故郷、川上村は、吉野林業の発祥地です。かつて豊臣秀吉は大阪城を築城する際に吉野材を使ったといわれます。また、江戸時代の川上村は、灘・伏見の酒樽をつくる樽丸の産地としても栄えました。杉本さんは、よい母樹を選んで、よい種を採り、林業の未来を支えてきたのです。そんな仕事を続けてきた杉本さんは、代田さんに問いかけました。

「森は家や。人間だけやなし、動物や植物が共存するための家や」

林業は大事だけれども、ただ、自分たちの利益のためだけに杉を植えればいいというわけではない。あらゆる動物や植物が共存するためには、人工林をつくるだけではなく天然林を残すことも大切だというのです。そして、人が植えた場所は必ず手入れをし、植えた木は育てなければならない。「このまま人間が自分たちの利益だけのために森をつぶしていったら、森は壊れる」と訴えたのです。
代田さんは、名人の話を聞いて思いました。
「名人の思いに応えるために、私にも何かできることはないだろうか」
そうして彼女は、甲子園に参加した仲間に呼びかけて、「共存の森」というグループを立ち上げました。現在、聞き書き甲子園の運営を担う「共存の森ネットワーク」というNPOは、こうして生まれたのです。

奈良県川上村/スギの種採り50年

名人
杉本充(奈良県橿原市)
聞き手
代田七瀬(日本女子大付属高等学校1年)

いたずらっ子時代

生まれ育ったのは奈良県川上村です。生家は山の中腹で、子どもんときはもっぱら山に入って遊んどったわ。遊び場は山と川やったでな。木や葉っぱで家をつくったり、崖から木に飛び乗ったり、蜂と対決したりして、スリルを味わってました。よく刺されましたよ。そういう冒険好きのいたずらっ子でした。

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